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東京高等裁判所 昭和46年(行コ)30号 判決

東京都目黒区中町二丁目五〇番一一号

控訴人

篠田順一郎

右訴訟代理人弁護士

上山義昭

伊東七五三八

同区中目黒五丁目二七番一六号

被控訴人

目黒税務署長

薄井信明

右指定代理人

中村勲

中川精二

細金英男

荒木慶幸

右当事者間の所得税更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人(原審原告)は、「原判決を取消す。被控訴人が(一)、昭和三八年五月一八日付昭和三五年分所得税の更正通知書および加算税の賦課決定通知書をもつて控訴人に通知した、控訴人の昭和三五年分所得税について納付すべき本税の額金二、〇七四、四〇〇円および過少申告加算税金九一、〇〇〇円と更正した課税処分、(二)、昭和三八年五月一八日付昭和三六年分所得税の更正通知書をもつて控訴人に通知した、控訴人の昭和三六年分所得税について納付すべき本税の額金六七六、〇八〇円および過少申告加算税金一〇、六〇〇円と更正した課税処分は、いずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上法律上の陳述および証拠の提出援用認否は、次に掲げるもののほか、原判決事実第二、第三、第四に記載されたとおりであるから、その記載を引用する。

控訴人は次のとおり述べた。

(一)  控訴人の昭和三五年分および昭和三六年分所得税の申告納税に対し、芝税務署長は昭和三七年一二月二四日付をもつて、国税通則法二四条、二五条により、それぞれ所得税の更正および過少申告加算税の賦課決定をし、ついで昭和三八年四月五日付をもつて、同法二六条により、右更正に対する再更正、右賦課決定に対する変更決定をした。同税務署長は当時控訴人の住所の移動を知らないでこれらの処分をしたもので、処分自体は同法三〇条二項の規定に照らし適法であるから、その後に被控訴人の行なつた請求趣旨掲記の各処分(昭和三五年分所得については東京国税局長の審査裁決により減額されたもの)は当然無効であり、形式上も同法三〇条三項により取消をすべきものである。

(二)  所得税法(昭和三六年の改正前のもの)九条一項八号の「営利を目的とする継続的行為により生じた所得」という表現は、不明確かつ多義的であり、同法六条五号とあわせて読んでも、有価証券の譲渡による所得に対しては課税があるのか否か、またいかなる場合に課税されるのかを予測することができない。しかもこの法条の運用について、国民が知る機会を与えられない税務当局内部の通達が基準とされているとすれば、当局の恣意による課税の危険が大きいといわなければならない。よつて本件処分は租税法律主義の精神に違背し、公平課税の原則にも反する。

被控訴人は次のように述べた。

右(一)の主張事実のうち、芝税務署長が被控訴人主張のとおり更正、再更正、賦課決定および変更決定をしたことは認める。しかし同税務署長の昭和三七年一二月二四日付更正および決定は、これより先昭和三五年一二月二六日付に控訴人が東京都港区芝西久保巴町から肩書地に転居し、同日以降控訴人に対する所得税関係の所轄税務署長が被控訴人となつたことにより、芝税務署長が昭和三八年四月五日付前記再更正および変更決定をもつてこれを取消したのである。したがつて、本件係争の被控訴人の処分が芝税務署長の処分と牴触することはない。

(二)  の主張内容は争う。

理由

請求原因事実は争がない。

控訴人が本件更正および賦課決定の取消を求める理由の第一は、控訴人の昭和三五年分、三六年分の所得税に対しては、さきに芝税務署長により適法に更正および賦課決定がされているから、被控訴人の本件処分は無効であり、国税通則法三〇条三項を適用して取消すべきであるというにあり、所論の芝税務署長の処分があつた事実は被控訴人も争わないが、右処分が本件処分より早い時期に同税務署長みずからにより取消されてることも、成立に争のない甲四号証の一、二によつて明らかに認められるところで、右取消処分を無効と断定すべき根拠もないのであるから、本件処分について国税通則法三〇条三項が適用される余地はなく、同様に本件処分を当然無効ということもできない。

理由の第二は、原判決別紙一の株式譲渡による控訴人の所得に対しては所得税を課する規定がないし、別紙二の株式譲渡による所得に対する課税の根拠規定といわれる所得税法(昭和三六年法律第三五号による改正法)六条六号イの規定は憲法一四条一項に反する無効の規定であり、また右改正法の施行は昭和三六年四月一日であるから、同年一月から三月までの控訴人の所得に対しては適用されないというにある。

しかし、昭和三六年法律第三五号による改正前の所得税法六条五号は、非課税とされる所得を「第九条第一項第八号に規定する所得のうち、有価証券(中略)の譲渡によるもの」と定めているが、同法九条一項八号は「資産の譲渡による所得(前号に規定する所得及び営利を目的とする継続的行為により生じた所得を除く。以下譲渡所得という。)(後略)」としてあり、右両条文をあわせて読めば、営利目的の継続的株式譲渡による所得は非課税でないことが理解できる。そして、控訴人の昭和三五年中の株式取引が原判決別紙一記載のとおり五四三回、二五〇万余株にのぼる以上、これによる所得を同法九条一項八号の除外規定該当の所得とみて課税することは、なんら違法でないというべきである。

次に、控訴人の昭和三六年中の株引取引による所得については、同年改正の所得税法附則二項により同法の適用をうけることになるから、同法六条六号イ、九条一項八号および同年政令六二号四条の三により、売買回数五〇回以上かつ株教二〇万株以上の継続的取引による所得であるならば非課税とならないこと明らかであるところ、控訴人のした取引は原判決別紙二記載のように、八〇回、三六万余株に達するものであるから、課税に所論の違法はないというべきである。また、右六条六号イの規定が違憲であるとの主張に対する当裁判所の判断は、原判決理由第五段(判決書一〇枚目表一〇行目以下段落まで)と同じものであるので、これを引用する。

そうすると、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却を免れず、原判決は相当であるから控訴を棄却することとし主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 田嶋重徳 裁判官 吉江清景)

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